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大阪地方裁判所 昭和49年(ヨ)3756号 決定

申請人 山内幸代 外四名

被申請人 日本データ・ビジネス株式会社 外一名

主文

1  被申請人日本データ・ビジネス株式会社は、昭和四九年九月一日以降毎月二五日限り、申請人山内幸代に対し金六万九〇〇〇円宛を、同宮城ひろ子に対し金六万四〇〇〇円宛を、同西本美恵子に対し金六万三〇〇〇円宛を、同安岡光子に対し金七万三〇〇〇円宛をそれぞれ仮りに支払え。

2  申請人山内幸代、同宮城ひろ子、同西本美恵子、同安岡光子の被申請人日本データ・ビジネス株式会社に対するその余の申請並びに被申請人全日本空輸株式会社に対する本件仮処分申請は、いずれもこれを却下する。

3  申請人白石鈴江の被申請人両名に対する本件仮処分申請は、いずれもこれを却下する。

4  申請費用中、申請人白石鈴江を除くその余の申請人ら四名と被申請人日本データ・ビジネス株式会社との間に生じた分は同被申請人の、被申請人全日本空輸株式会社との間に生じた分は右申請人ら四名の各負担とし、申請人白石鈴江と被申請人両名との間に生じた分は同申請人の負担とする。

理由

第一申立

一  申請人らの求めた裁判

1  被申請人両名は連帯して、申請人らを被申請人全日本空輸株式会社(以下、全日空と略称する)の従業員(キーパンチヤー)として仮りに取り扱え。

2  被申請人両名は連帯して、昭和四九年九月一日以降毎月二五日限り、申請人山内幸代に対し金九万七〇〇〇円を、同宮城ひろ子に対し金九万五六六七円を、同西本美恵子に対し金七万三六五六円を、同安岡光子に対し金一〇万七二四七円を、同白石鈴江に対し金六万六八五五円をそれぞれ仮りに支払え。

との決定。

二  被申請人らの求めた裁判

1  本件申請を却下する。

2  申請費用は申請人らの負担とする。

との決定(但し、全日空は訴訟費用の裁判の申立なし)。

第二主張

一  申請理由の要旨

(一)  申請人山内は、昭和四七年四月頃被申請人日本データ・ビジネス株式会社(以下、NDBと略称する)にキーパンチヤーとして入社し、同四八年七月以降全日空大阪整備工場においてキーパンチヤーとして勤務していたもの、申請人白石は、同四七年一〇月頃NDBに入社し、同四八年八月以降全日空大阪整備工場においてキーパンチヤーとして勤務していたもの、申請人宮城は、同四八年四月NDBに入社し、同年六月以降全日空大阪整備工場においてキーパンチヤーとして勤務していたもの、申請人西本は、同四九年一月頃NDBに入社し、同年二月以降全日空整備本部補給部大阪資材課においてキーパンチヤーとして勤務していたもの、申請人安岡は、同四五年七月頃NDBに入社し、同四八年四月以降全日空整備本部補給部大阪資材課においてキーパンチヤーとして勤務していたものであつて、昭和四九年八月当時の一か月の平均賃金は、申請人山内は九万七〇〇〇円、同宮城は九万五六六七円、同西本は七万三六五六円、同安岡は一〇万七二四七円、同白石は六万六八五五円(いずれも毎月二五日払)であつた。

(二)  NDBは昭和四五年二月五日に設立された会社で、商業登記簿上電子計算の受託、オペレーターの養成等を目的とする旨記載されているけれども、床面積わずか二〇平方メートルの狭小な事務所一室を借り受け、数個の事務机と社長以下五名の事務員を有するだけの会社であつて、その事業の実態は、「社員」の名目で雇い入れた女子を他企業に送り込み、その企業所有の端末機器操作の労務に従事するキーパンチヤーとしてこれを使用させることを業とするものであり、職業安定法四四条によつて禁じられた労働者供給事業を行なうものである。このことは、次の諸点からみても明らかというべきである。

(1) NDBの組織・施設等の実態は右のとおりであつて、キーパンチヤーの勤務場所は派遣先の構内施設自体であり、そこで使用すべき用具・設備等もすべて派遣先所有のものであること。

(2) NDBが各派遣先との間で結んでいる「業務請負契約」なるものの実質は、ただ個々のパンチヤーの労働を派遣先に提供することだけを内容とし、それ以上のことは一切含まれていないのであつて、NDBの企業としての業務内容もそれに尽きていること。

(3) キーパンチヤーに対する具体的な勤務場所、使用すべき機器ならびに個々の作業自体の指示から技術指導その他作業上の指揮監督はすべて派遣先企業によつてなされ、NDBはその点について全く関与せず、勤務環境についても支配介入できるような立場にはない。さらに、具体的な日常の勤務時間・休憩時間・勤務体制等の細部にいたるまで派遣先企業がこれを指示し、出退勤等の勤務状態もすべて派遣先企業の管理下にあること。

(4) キーパンチヤーを受け入れて採用するかどうかの決定権は最終的には派遣先企業にあること。

(三)  全日空は形式上、NDBとの間の「業務請負契約」にもとづいて申請人らから労務の提供を受けているものであるが、その労務の提供は、申請人らを全日空の企業運営上不可欠の必要的業務の担当者として、完全にその企業組織の中に組み込んで支配下に収め、申請人らは全日空に対し同社の社員と全く同様の従属関係に置かれるという状況下になされたものであるから、申請人らと全日空との間にも、直接の雇用契約関係が成立しているものというべきである。

すなわち、NDBと申請人らとの間の労働契約は、前記のとおり、もつぱら中間搾取のために申請人らを他企業へ供給することを目的とするものであつて、公序良俗に反して無効のものであり、また、NDBと全日空との間の「業務請負契約」も職業安定法四四条によつて禁止された無効な契約というべきところ、申請人らが全日空の企業組織の中に完全に組み込まれ、その指揮監督の下に労務を提供していたものであることは前記のとおりであるから、このような実質的使用従属関係の継続により、全日空と申請人らとの関係は法的にも労働契約関係にまで高められ、もしくは、黙示的に労働契約関係が成立したものとみることができるのである。けだし、実質的な使用従属関係の下において労働者が継続的に労務を提供し、企業がこれを受領している以上、企業側の「みずからの労働者として労働力の処分権を取得し、これを処分する意思」と労働者側の「その企業を自己の使用者とする意思」との合致により、労働契約関係が設定されたものというべきは当然だからである。

なお、右「請負契約」もなんら仕事の完成を目的とするものではないのであつて、事態を客観的に直視するならば、NDBは労働者である申請人らを雇用するという形でこれを支配関係に置いたうえ、「派遣」という形で全日空に提供し、その使用に供せしめていたものであることが明らかである。

(四)  しかして全日空は、昭和四九年六月三〇日付をもつてNDBとの間の「業務請負契約」(申請人らを全日空に使用させる旨の労働者供給契約)を合意解約したところ、右合意解約は、労基法六条に違反してもともと無効であつた労働者供給契約についてなされた合意解約であつて法的には無意味な行為であり、また、全日空はこの合意解約を口実に申請人らを右同日限り企業外に排除し、以後引続き申請人らの就労を拒否しているけれども、それも要するに就労拒否というだけのことであつて、いずれにせよ、申請人らと全日空との間に成立した前記労働契約関係は現在もそのまま存続しているものといわなければならない。

(五)  かりに、全日空の申請人らに対する右のごとき職場排除・放逐が事実上の解雇とみることができるとしても、その解雇はいずれも次の理由により無効である。

(1) (不当労働行為)申請人らは昭和四八年一一月ごろから身体に異常を覚えるようになつたが、たまたま同四九年四月全日空労組伊丹支部が申請人らの職場の環境調査を行ない、申請人らと懇談する機会があつたことから、同労組の勧めで専門医の診察を受けたところ、職業病である頸肩腕障害と診断されたので、それ以後右労組の支援を得て職業病をなくすための闘いに立ち上り、同労組員に職場の実情を訴えたり、全日空に対し繰り返し改善要求を出したりするようになつたものであつて、やがて労働組合の結成は時間の問題となり、五月二一日には全日空労組とパンチヤー全員の会議で組合を結成することが決議されるにいたつた(七月一一日に全日本商業労働組合に加盟し、NDB分会を結成)。しかして全日空は、自社の劣悪な職場環境に起因して申請人らが職業病にかかつたことについての責任追及を回避するとともに、申請人らの右のごとき活動を阻止することができないとみるや、これを嫌悪して申請人らを企業から排除するため、同様に申請人らによる組合結成を妨害し続けてきたNDBと共謀の上、同社との間の労働者供給契約を合意解約して申請人らを解雇したものであるから、いずれも不当労働行為として無効というべきである。

(2) (解雇事由の不存在)全日空による右解雇については、同社の就業規則上の解雇事由に該当するような事情は全く存在しない。

(3) (労基法一九条違反)申請人らはいずれも、本件解雇当時、前記のごとく業務上の疾病である頸肩腕障害にかかつて療養中であつたものであるから(天満労働基準監督署は、昭和四九年一一月二九日申請人らに対し労災認定をした)、右解雇は労基法一九条に違反して無効である。

(4) (権利の濫用)全日空は、申請人らを過酷な労働条件の下において働くだけ働かせ、そのために申請人らが職業病にかかつてその労働能力が減退するとみるや、責任を回避するため、弊履を捨て去るごとくこれを解雇したものであるから、その解雇は解雇権の濫用に当り無効というべきである。

(六)  さらにNDBは、同四九年七月一五日申請人らに自宅待機を指示したのち、同年八月三〇日「止むをえない業務上の都合」を理由に、就業規則五一条により申請人ら(但し、申請人白石を除く)を解雇した。

(1) しかしながら、NDBと申請人らとの間において形式上締結されている労働契約は、違法な労働者供給事業の目的を達成するための手段として、同事業と不可分の関係にあるものであるから、公序良俗に反して当初から無効のものというべきであり、したがつて、右解雇は法的にはなんら意味のないものであつて、法的効果を生ずるに由ないものである。

(2) かりに万が一、右労働契約が有効と認められるとしても、全日空が申請人らを前記各日時に面接してその使用従属関係に組み入れたことにより、申請人らとNDBとの間の労働契約関係は消滅したとみるべきであるから、右解雇は、同様に法律上無意味のものというべきである。

(七)  さらに、かりにNDBとの間の右労働契約が有効に成立し、申請人らが全日空の企業組織に組み入れられて従属関係に立つたのちにおいてもなお、なんらかの理由で有効に存続していたとしても、申請人らに対する右解雇の意思表示は、次の理由により無効である。

(1) 右解雇については、就業規則五一条所定の「止むを得ない事業上の都合」はなんら存在しない。NDBのいうパンチセンター設置計画の挫折やパンチヤーの求人の減少などは、NDBの事業が労働者供給事業という寄生的性格を有することから生じた当然の帰結であつて、そのことが正当な解雇事由たりえないことは明らかというべきである。

(2) また、右解雇の意思表示は解雇権を濫用したものである。すなわち、本件解雇の経過を素直にみるならば、業務上頸肩腕障害にかかつた申請人らの処置に窮し、厄介払いのためこれを解雇したものにほかならないから、これが解雇権の濫用に当ることはいうまでもない。

(八)  さらに、申請人白石は、昭和四九年八月七日NDBに対し「退職願」を提出して退職の意思表示をしたが、右退職の意思表示は当初より無効であるか、または、取消により遡つて無効となつたものである。その理由は以下のとおりである。

申請人白石は同月初頃NDBに対し、前記疾病治療のための通院交通費(バス代)を請求したが、その際、現実にはタクシーで通院していたこと等の理由により、一〇日分(二〇〇〇円)を余分に請求したことから、医院への照会でそのことを知つたNDB側では、同申請人に対し横領による責任追及の材料を得ようと図り、同月六日そのことを秘匿したまま同申請人に請求どおりの通院交通費を支給したうえ、翌七日あらためて出社を求め、山川課長および赤松監査役から申請人白石に対し「これは横領だ、懲戒解雇事由に当る、そうなると結婚もできなくなるし、家族にも迷惑がかかる」などと強迫し、さらに、これを書いておけば反省の意思があらわれて穏便に済み、NDBにもいられるなどと甘言を用いて退職願の用紙を差し出したため、申請人白石においても恐怖心から右甘言をそのまま信じて、言われるままに退職願を提出するにいたつたものである。しかるにNDBの波多野社長は、右の言に反して翌八日ただちに申請人白石の退職を決定したものであるから、右退職願の提出による退職の意思表示は、わなにかけられたうえ退職を強要されたことによるものであつて公序良俗に反して無効であり、波多野社長の退職決定の意思表示も信義則に反して無効である。かりにそうでないとしても強迫によるものであり、申請人白石は同年九月三日到達の書面により、NDBに対しこれを取消す旨の意思表示をしたから、右退職の意思表示は遡つて無効となつたものである。

(九)  そうすると、申請人らはいずれも、現になお全日空の従業員たるの地位にあるものであり、全日空は(予備的にNDBも全日空と連帯して)申請人らに対し、昭和四九年九月一日以降毎月二五日限り前記各平均賃金を支給すべき義務を負うものであつて、申請人らは右地位の確認と賃金支払の本案訴訟を提起すべく準備中であるが、前記職業病の療養中であるうえに、いずれも未婚の女性で賃金を唯一の生活の支えとする労働者であり、家族からの生活費の借用等によつてようやくその日をしのいでいる状態にあるものであつて、右本案訴訟での勝訴判決の確定をまつていては、回復不能の著しい損害を生じる虞れがあるので、本件仮処分申請に及んだものである。

二  NDBの答弁の要旨

(一)  申請人らの申請理由の要旨(一)の事実は、申請人ら主張の平均賃金の点を除いて認める(但し、申請人白石のNDB入社は昭和四七年一二月、同宮城の全日空での勤務開始時期は同四八年五月、同西本のNDB入社は同四九年二月一日である。右平均賃金は、申請人山内は七万一二八〇円、同宮城は七万二六六〇円、同西本は七万〇〇八〇円、同安岡は八万〇九七〇円、同白石は七万二八一〇円である。

(二)  同(二)の事実のうち、NDBが職業安定法四四条によつて禁止された労働者供給事業を行なうものであるとの点は争う。NDBは資本金三〇〇〇万円、従業員数九〇名余、東京・大阪に営業所を持つ株式会社で、本社事務所に常勤として五名の者が勤務しているが(なお事務所の床面積は二一坪)、他の従業員もすべてNDBの社員として採用し、各委託先に分散配置して勤務させ、受託業務(主としてコンピユーターへのインプツト業務)の履行に従事させているものであつて、他企業に単に労務を供給しているものではないから、職業安定法四四条にいわゆる労務供給事業を営むものでは毛頭ない。このことは、NDBと同様の業種の企業が多数存在するにもかかわらず、関係監督官庁から問題にされたことが全くないこと、申請人ら従業員がいずれもNDBの従業員として採用され、各委託先に配属されても、業務の都合で他に配転されることもしばしばあつたこと、また、NDBの就業規則等によつて管理され、賃金もNDBから支払われていたほか、各委託先の職場では、派遣された従業員のうちから責任者(チーフ)が定められていたことなどからも明らかである。

(三)  同(三)の事実も争う。申請人らはNDBの従業員として同社との間で支配従属関係に置かれているものではあるが、全日空との間においてはそのような関係に立つものではなく、全日空での勤務もすべてNDBの指揮監督下になされ、その勤務条件その他も右業務請負契約によつて決定され、NDBの就業規則に基づいて定められていたのであるから、申請人らと全日空との間に直接の労働契約関係が成立していたとは到底いえないし、また、NDBが全日空に申請人らを使用させていたものでもない。

(四)  同(四)の事実のうち、NDBと全日空との間の業務委託契約が申請人ら主張のときに合意解約されたこと、NDBが同年七月一五日申請人らに対し、翌一六日以降自宅待機するよう指示し、同年八月三〇日申請人白石を除くその余の申請人らを、「止むをえない業務上の都合」を理由に就業規則五一条により解雇したことは認める。しかして、NDBが全日空との契約を合意解約し、右申請人らを解雇するにいたつた理由は次のとおりである。

NDBは右業務請負契約に基づき、全日空に対し申請人らを含めて一〇名のキーパンチヤーを派遣していたが、昭和四九年五月下旬にいたつて突然、申請人ら五名ほか一名の者が一度に身体の不調を訴えるようになり、頸肩腕障害の疑いありとの医師の診断を得て通院治療を始めるようになつたことから、代替要員を出す人的余裕もないまま、全日空より請負つた業務の遂行が不可能となつたので、やむなくその旨全日空に申し出てその諒承を得、同年六月三〇日付をもつて右請負契約を合意解約することとしたものである。

さらに、全日空から引揚げた一〇名のキーパンチヤーについては、NDBが以前から計画していた独自のパンチセンターを早速設置したうえ、健康体の者にはキーパンチ作業を、申請人らにはカードの整理、原簿の整理、納品書の作成等の作業をそれぞれ割り当てる予定をしていたところ、同年七月中頃までに右健康体のキーパンチヤーらが一名を残して全部結婚を理由に退職してしまつたため、この計画も実現が不可能となつたので、やむなく申請人らに自宅待機を命ずることとした。しかし、その後も経済界全般の不況から申請人らを派遣する場所を確保することは困難であり、特に前記疾病のため当分は事務職に配置する必要があつたことからその困難さは一層大きく、申請人山内および宮城にNDB社長個人の経営する学校での事務の仕事を勧めてみたがこれも拒まれるといつた有様で、申請人らに就いてもらう適当な仕事が全くないような状態となつてしまつたので、同年八月三〇日付をもつてやむなく前記のごとく就業規則五一条により申請人らを解雇することとしたものである。

(五)  同(五)の(1)の事実のうち、申請人らに対する解雇が不当労働行為にあたるとの点は争う。NDBが申請人らによる組合の結成を妨害したり、全日空と共謀して申請人らを全日空労組と分断すべくことさらに全日空の職場から排除したような事実はない。NDBとしては、申請人らがその主張のような活動をしていたことは、全く知らなかつたものである。

(六)  同(六)の事実のうち、NDBが違法な労働者供給事業を行なうものであつて、申請人らとの間に締結した労働契約もその故に無効であるとの点は争う。

(七)  同(七)の事実のうち、申請人ら(但し、白石を除く)に対する解雇が就業規則所定の「止むを得ない事業上の都合」によるものでなく、また、解雇権の濫用にあたるとの点は争う。右解雇は前記のごとき事由によるものであつて、これがやむをえない適切な措置であつたことは、その後のNDBの受託業務の推移をみても明らかである。

(八)  同(八)の事実のうち、申請人白石が通院交通費を実際よりも一〇日分余分に請求して受領したこと、その事実を知つた会社側の山川総務課長が、八月七日社長の指示によつて同申請人を呼び出し、事実を示して注意を与え、反省を求めるとともに、これが懲戒事由に該当する旨を述べたことはあるけれども、それ以外に申請人ら主張のような言辞を弄して同申請人を強迫したり欺罔したりしたようなことはない。申請人白石は、山川課長の求めによつて始末書を書いたのち、自分の方から会社を辞めますと言い出し、山川課長から退職願の用紙を貰つてその場で書いてこれを提出したのであつて、その後も離職票を要求したり、退職金を異議なく受領したりしているのであるから、全く任意に退職の意思表示をしたものであることは明らかである。

かりに右退職の意思表示になんらかの瑕疵があつてその効力を生じていなかつたとしても、NDBとしては、同四九年八月三〇日に他の申請人らに対してと同様、申請人白石に対しても解雇の意思表示をしたはずであるから、同申請人は同月三一日以降NDBの従業員の地位にはないものである。

三  全日空の答弁の要旨

(一)  申請理由の要旨(一)の事実のうち、申請人らがNDBの社員であつて、その主張の頃から(但し、申請人宮城は昭和四八年五月一七日から)全日空大阪整備工場生産管理課および整備本部補給部大阪資材課においてキーパンチヤーとして電算機の端末機器のキーイン作業に従事していたことは認めるが、その余の点は知らない。

(二)  同(二)の事実のうち、NDBが労働者供給事業を行うものであるとの点は否認する。NDBは従業員数九八名、東京・大阪に営業所を持ち、作業場所は全国一一個所で、主としてコンピユーターのオペレーシヨン業務を行つている独立した企業である。かりにNDBの事業が申請人ら主張のとおりであるとしても、そのことと、全日空と申請人らとの間の事実上の労働契約関係の存否の問題とはなんら係わりのない事柄である。

(三)  同(三)の事実はすべて争う。全日空がNDBとの間で申請人ら主張のごとき業務請負契約を結んだことはない。もつとも、全日空は申請外の株式会社日本ビジネス・コンサルタント(以下、NBCと略称する)との間において電算機の端末機器の操作業務に関する請負契約を締結したことがあり、かつ、NBCが全日空に黙つて当該業務の処理をNDBに下請けさせ、NDBから申請人らを全日空に派遣してキーパンチヤー業務を処理させていたことはある。ところが、昭和四八年一一月頃になつて初めてそのことが全日空側に分つたことから、関係者において協議の結果、NBCとの契約期間の満了する昭和四九年四月一日以降は、全日空とNDBとの間で直接契約を結ぶこととなつたが、請負代金の額について容易に合意に達するにいたらなかつたので、契約を締結しないまま、相当の報酬を支払つて事実上キーパンチヤー作業だけはそのまま処理するという状態が続いた。しかし、やがて請負代金の額についても合意に達するにいたつたので、同年六月四日新規契約を締結したい旨NDB側に連絡したところ、同日夕刻になつて突然NDB代表者から、最近従業員の中から健康を害する者が続出したため請負業務を満足に履行することが出来ない状況にあるとの理由で、新規契約締結の件は見合わせたいとの申出があり、全日空側から従前どおり作業を継続してもらいたい旨繰り返し懇請したが容れられなかつたため、結局、契約締結にいたらないまま、同月三〇日をもつて作業は打ち切られることとなつたものである。

さらに、申請人らと全日空との間で事実上の労働契約関係が成立していたようなこともない。申請人らはNBCもしくはNDBの監督者の指揮命令の下にキーパンチ作業に従事していたものであつて、申請人らが全日空との従属関係の下に置かれていたとか、完全にその支配下に収められていたとかいつたような状況は全くない。全日空としてはただNBCから請負業務の履行を受けていただけであつて、申請人らから労務の提供を受けていたものではない。

本件の場合、申請人らの使用者であるNDBは独立した企業体であつて、申請人らはすべてその責任者(課長、係長、チーフ)の指揮監督下に作業に従事していたものである。全日空にはキーイン業務に従事する自社の社員が一人もいないのであるから、そもそも自社の社員と一緒に申請人らを指揮監督できるような立場にはなかつたのである。全日空が業務実施場所をNBCとの間で取きめたのは当然の措置であるが、申請人ら個人にそれを指示したようなことはないし、また、個々具体的な作業自体も、入力資料を書類箱に入れておいたのを申請人らが取出してキーイン作業をするというだけのことで、仕事の内容について申請人らに直接指示命令するようなこともない。さらに、作業実施日・実施人員はNBCとの契約によつてきまつたもので、全日空が一方的に指示したものではなく、出退勤等の勤務状況もすべてNBC(もしくはNDB)によつて管理され、全日空がこれを管理したり、許可を与えたりしたようなことは全くない。

(四)  同(四)および(五)の事実も否認する。全日空は前記のごとくNDBと業務請負契約を結んだことがないのであるから、それを合意解約することもありえない。また、申請人らとの間に労働契約関係が存在しない以上、これを解雇するということもありうるはずがない。なお、申請人らが解雇無効事由として主張する事実もすべて争う。

第三当裁判所の判断

一  (本件の背景となる事実関係)

疎明資料によれば、次のような事実が一応認められる。

(一)  申請人山内幸代は、昭和四四年四月高校卒業後ただちに株式会社大松に入社したが、同四七年三月同社を退職したうえ、同月一三日NDBとの間で同社の就業規則等に従い社員として雇傭する旨の労働契約を締結し、キーパンチヤーとして同会社に入社した。入社後ただちに大日本インキ株式会社に派遣され、同社の電算機室においてキーパンチヤーとして勤務していたが、NDBの指示により、同四八年七月以降全日空に派遣され、同社大阪整備工場生産管理課においてキーパンチヤーとして勤務し、部品伝票に基づく情報を電算機の端末機にキーインする作業等に従事するようになつた。同申請人が昭和四九年五月から七月までの間NDBより支給された給与(手取額)の一ケ月平均額は六万九五七五円であり(毎月二五日支給、以下同様)、同年六月一七日に支給された賞与の額(手取額)は一四万九三〇五円である。

(二)  申請人白石鈴江は、昭和四六年三月高校卒業後日本ドリーム観光株式会社(新歌舞伎座)に入社したが、同四七年八月同社を退職し、同年一〇月NDBの代表者波多野巌の経営する日本テレタイプ・テレツクス専門学院において三週間の研修を受けたのち、同年一二月一日NDBとの間で前同様の労働契約を締結し、キーパンチヤーとして同社に入社した。入社後ただちに丸紅株式会社に派遣され、同社経理課においてキーパンチヤーとして電算機(フレクソライター)用テープの穿孔作業に従事していたが、NDBの指示により、同四八年六月からNDB本社において、当時同社に設置されていた電算機端末機に本州製紙株式会社から委託された伝票類をキーインする作業に従事することとなり、さらに、同年八月からは全日空に派遣され、同社大阪整備工場生産管理課においてキーパンチヤーとして前同様の作業に従事するようになつた。同申請人が昭和四九年六月から七月までの間NDBより支給された給与(手取額)の一ケ月平均額は六万一八四九円である。

(三)  申請人宮城ひろ子は、昭和四六年一〇月ごろ浅葉電気株式会社に入社したが、同四七年一二月末に同社を退職したうえ、同四八年四月NDBとの間で前同様の労働契約を締結して同社に入社し、同年五月一六日以降全日空に派遣されるとともに、同社大阪整備工場生産管理課においてキーパンチヤーとして勤務し、前同様の作業に従事するようになつた。同申請人が昭和四九年四月、五月および七月の三月分としてNDBから支給された給与(手取額)の一ケ月平均額は六万四〇三四円であり、同年六月一七日に支給された賞与の額(手取額)は一四万二八一六円である。

(四)  申請人西本美恵子は、昭和四六年三月高校卒業後ただちに東洋信託銀行に入社したが、同四七年五月同社を退職したうえ、同四九年一月二一日新聞広告で知つたNDBとの間で前同様の労働契約を締結して同社に入社し、同年二月一日以降全日空に派遣されて、同社補給部大阪資材課においてキーパンチヤーとして勤務し、前同様部品伝票に基づく情報を電算機の端末機にキーインする作業等に従事するようになつた。同申請人が昭和四九年五月から七月までの間NDBより支給された給与(手取額)の一ケ月平均額は六万三一八一円であり、同年六月一七日に支給された賞与の額(手取額)は四万八四五五円である。

(五)  申請人安岡光子は、昭和四四年三月高校卒業後ただちに日本電気株式会社に入社したが、同四五年三月同社を退職したうえ、同年四月雑誌で知つた前記日本テレツクス・テレタイプ専門学院に入学し、三ケ月間テレタイプのタイピングの研修を受けたのち、同年七月七日同学院の過程修了とともにNDBとの間で前同様の労働契約を締結して同社に入社した。入社後ただちに野村貿易株式会社に派遣され、同社機械計算課フレクソライター係においてキーパンチヤーとしてフレクソライターによるテープの穿孔作業に従事していたが、NDBの指示により、同四八年四月から全日空に派遣され、同社補給部大阪資材課においてキーパンチヤーとして前同様のキーイン作業に従事するようになつた。同申請人が昭和四九年五月から七月までの間NDBより支給された給与(手取額)の一ケ月平均額は七万三〇〇二円であり、同年六月一七日に支給された賞与の額(手取額)は一五万八八一二円である。

(六)  被申請人NDBは昭和四五年二月五日に設立された株式会社で、大阪市北区富田町一三番地高橋ビル本館に本店を有し(ただし、設立当時の本店所在地は東京都豊島区南池袋二六番七号。同所は現在、東京営業所となつている)、資本金は三〇〇〇万円、商号登記簿上の目的は「電子計算の受託業務及びオペレーターの養成並びに機材の賃貸業務、テレタイプテレツクスの操作受託業務並びにオペレーターの養成及び機材の保守業務」等(NDBの会社経歴書によれば、同会社の業務内容は「データパンチの受託、キーパンチヤー及びテレツクス・テレタイプオペレーターの派遣、電話交換業務の受託、電子計算機による各種事務計算・科学技術計算の受託」とされている。)である。

(七)  被申請人全日空は、定期航空運送業その他の事業を目的として昭和二七年一二月二七日に設立された資本金二七五億四〇〇〇万円の株式会社であつて、航空機及び装備品・部品についての時間管理、在庫管理、修理管理のため、羽田空港に中央演算処理装置(電子計算機)を設置し、部品の出納・修理状況等に関するデータを右電子計算機に入力する業務を行なつているものであるが、電子計算機へ送信するデータをその端末機にキーインする作業に従事する自社従業員が大阪国際空港には全くいないところから、同空港における端末機器操作業務については従来からこれを外注に出し、業者に委託してそれをなさしめることとしていた。

(八)  しかして全日空は、昭和四五年五月以降、NDBと同種の事業を経営している大手の株式会社日本ビジネスコンサルタント(NBC)との間で期間を一年とする「業務請負契約」を締結して右端末機器操作業務を委託し、期間の満了するごとにこれを更新してきたが、NBCは当初よりみずからこれを履行せず、全日空には無断で同業者であるNDBとの間で殆ど同一内容(請負金額が異なるだけ)の「業務請負契約」を締結して右業務をこれに再委託していたため、NDBにおいてその従業員であるキーパンチヤー(一〇名)を全日空に派遣することとなつたものであつて、申請人らが前記のごとく、全日空大阪整備工場生産管理課及び同社補給部大阪資材課においてキーパンチヤーとしてキーイン作業に従事するようになつたのも、そのような経緯によるものであつた。

(九)  ところが、昭和四八年一一月ごろになつて、NDBの従業員であるキーパンチヤーが派遣されてきていることが全日空側に分つたことから、NDB・NBC・全日空三者間で協議を重ねるようになり、その結果、NBCとの間の契約期間の満了する昭和四九年四月一日以降は、全日空とNDBとの間で直接に「業務請負契約」を締結してNBCは手を引くこととなつたが、新たに取りきめる請負代金の額について波多野社長と全日空側の担当者との間ですぐには合意に達しなかつたため、全日空本社の決済を経て正式に契約書を作成するにはいたらないまま、契約がいずれ正式に成立することは間違いないとの前提の下に、その際に代金等についても清算するという含みで、事実上申請人らキーパンチヤーによる作業はそのまま継続されることとなつた。しかし、やがて請負代金の額についても合意に達するにいたつたので、全日空本社の決済を得て契約書の正式調印をする運びとなつたが、その矢先である同四九年六月四日夕刻ごろになつて突然、波多野社長から全日空本社の担当者に対し、最近後記認定のような事情で、全日空に派遣した従業員の中から頸肩腕障害で健康を害する者が一度に多数出てきたため、全日空から委託される端末機器操作の業務を完全に履行することが困難な状況に立ち到つたとの理由で、契約締結の件は見合わせたいとの申出があり、同月七日双方の関係者が直接会合して協議した際にも、波多野社長の決意は固く、全日空側から新規契約を締結して従来どおり作業を継続してもらいたい旨懇請したにもかかわらず、波多野社長の応ずるところとならなかつたため、結局、同月三〇日付をもつて作業は打切られ、申請人らキーパンチヤー一〇名は全日空から引揚げられるにいたつた。

二  (申請人らと全日空との間の労働契約関係の存否)

しかるところ申請人らは、申請人らと全日空との間には実質的な使用従属関係があつたのであるから、法的にもその間に労働契約関係が成立していたものと認むべきであると主張し、被申請人全日空はこれを争うので、まずこの点について検討することとする。

申請人らとNDBとの間に労働契約が締結されていること、全日空がNBCとの間で大阪国際空港における端末機器の操作業務につき「業務請負契約」を締結し、NBCがさらにNDBとの間でほぼ同一内容の「業務請負契約」を締結していたことは前記のとおりであるが、申請人らと全日空との間に、直接には労務供給に関するなんらの明示的契約も締結されていなかつたことは右事実関係に徴して明らかなところである。この点につき申請人らは、全日空と申請人らとの間に使用従属関係、すなわち使用者の指揮、命令の下で拘束を受けて就労する状態が存在していることを前提として、そのような関係あるが故に法的にもその間に労働契約関係の成立を認むべきであると主張するけれども、かりに右のような状態が存在するとしても、それは要するに事実上の関係であるにとどまり、法律上の関係ではないのであるから、そのような状態が継続したからといつて当然に、これが法的関係である労働契約関係に転化するというようなことはありえないのであつて、右のごとき事実関係が法律関係にまで高められ、もしくは転化するためには、それなりの法的根拠を必要とすることはいうまでもないところである。

もつとも、使用者とその指揮・命令の下で拘束を受けて就労している者との間に、労務供給に関するなんらかの契約が現実に締結されている場合には、その契約が請負、委任その他いかなる名称を付されているかを問うことなく、その実質的内容に着目して、前記のごとき使用従属関係が認められるかぎり、これを労働契約と評価し、労働法的規制に服せしめるべきことは当然であるけれども、そのことから逆に、現実に労務供給に関する契約の締結されていない者の間においても、右のごとき関係があるかぎり、法律上も労働契約関係が認められるとすることには論理の飛躍があるといわざるをえない。

さらに、一般に不当労働行為制度は、労働関係上使用者の不当な行為を排除し、または防止することを目的とするものであるから、直接に労務供給に関する契約の締結されていない者の間においても、一方が他方の労働関係に対し直接的な影響力ないし支配力を及ぼし得る地位にある場合には、これを労働組合法上の使用者の一人として救済命令の名宛人とすることは、右のごとき不当労働行為制度の制度目的からして十分に可能であり、また、災害補償の関係においても、その制度目的に照らして、労務供給に関する契約の直接の当事者でない者に本来「使用者」の負担すべき責任を負わせるのが妥当とされる場合がありうることは否定できない(労基法八七条はそのことを前提としている)けれども、事実上の使用従属関係の存在からただちに、右のような個別的な関係の範囲を超えて、全面的関係における労働契約関係の成立を認め、その間に、直接の賃金請求権、就業規則の適用その他すべての面にわたつて、明示的に労働契約を締結した者と法律上全く同一の関係が存在することまで肯認することはできないといわなければならない。

しかしながら一方、労働契約は諾成・不要式の契約であるから、本件のごとく「業務請負契約」の請負人に雇用されている労働者が、その請負契約に基づいて、明示的労働契約関係のない注文者に対し事実上労務を供給している場合においても、その注文者との間において少くとも黙示的に労働契約が成立したものと認めうる余地のあることは、これを否定することができないであろう。ただその場合、黙示的にその成立が認めらるべき契約関係は労働契約であるから、単に事実上の使用従属関係が存在するというだけでなく、経験則ないし一般社会通念上、一方労働者の側では注文者をみずからの使用者と認め、その指揮・命令に従つて労務を供給する意思を有し、他方注文者の側ではその労務に対する報酬として直接当該労働者に対し賃金を支払う意思を有するものと推認するに足るだけの事情が存在するのでなければ、黙示的契約の成立を認めることができないことはいうまでもないところであつて、したがつて、たとえば請負人の存在が職業安定法四四条を故意に潜脱するための偽装的なもので、全く名目的なものにすぎないとか、請負人が独立の企業としての性格を失つて注文者の企業組織に組み入れられてしまい、実質上注文者の労務担当の職制の一人にすぎなくなつているとかの事情がなければ、右のごとき黙示の労働契約の成立を認定することは困難といわなければならない。

さらに、いわゆる法人格否認の法理によつても、「請負人」に雇傭される労働者と注文主との間に直接の労働契約関係の成立を認めることが理論上は可能であろう。すなわち、(一)会社である請負人の法人格が全く形骸にすぎず、注文主と請負人とが実質的に同一と認められる場合、(二)会社である請負人の法人格が法律の適用を回避するために濫用されている場合、つまり、注文者が会社である請負人を意のままに道具として使用できる支配的地位にあり、かつ、注文者による会社形態の利用が違法不当な目的に出ている場合には、会社である請負人の法人格を否認して直接注文者と労働者との間に労働契約関係の存在を認めることができるといつてなんら差支えがないというべきである。

なおこのほか、いわゆる事実的契約関係説によつて請負人に雇傭されている労働者と注文者との間の直接の労働契約関係を根拠づけようとする考え方もありうる。すなわち、使用者と労働者との間に労務供給に関する合意が存在しない場合でも、労働者が一定の経営組織の中に組み込まれて事実上の就労関係の下に置かれれば、そこに事実的労働契約関係が成立するというのである。しかし、当裁判所はこのような考え方を採ることができない。けだし、労働契約も一つの債権契約であり、労働者と使用者との間の明示的もしくは黙示的合意によつてはじめて成立するものであつて、そのような合意もないのに事実上の就労関係への組み入れのみによつて労働契約関係が成立することを肯定すべき法理上の根拠を見出すことができないからである。

そこで、以下、右のような観点の下に申請人らと全日空との間に直接の労働契約関係が認められるかどうかについて検討してみるに、疎明資料によれば次のような事実が一応認められるのである。

(一)  NDBの事業の概要

(1) 被申請人NDBが昭和四五年二月五日に設立された株式会社で、大阪市北区富田町一三番地高橋ビル本館に本店を有し、資本金は三〇〇〇万円、商業登記簿上「電子計算の受託業務及びオペレーターの養成並びに機械の賃貸業務、テレタイプ・テレツクスの操作受託業務並びにオペレーターの養成及び機械の保守業務」等をその目的としているものであることは前記のとおりであるが、同社の代表取締役である波多野巌(以下、波多野社長という)は、これより前、昭和四〇年五月ごろに広告代理業を営む株式会社日本報知社を設立してその代表者となり、さらに、同四二年五月ごろ個人経営の日本テレタイプ・テレツクス専門学院(テレタイプ・テレツクスのオペレーターを養成する学校)を買収して院長となり、これを並行して経営していた。ところが、やがて同学院に対しテレツクスやテレタイプの操作を委託する者が増えてきたことから、同四四年九月ごろ右日本報知社の商号を日本システム・オペレーシヨン株式会社と変更したうえ、同会社において右受託業務及び学院の経営を行なうこととし、さらに、事業規模の拡大に伴い、同四五年二月に被申請人NDBを設立して右受託業務等をこれに承継させ、一方、学院の経営については、新たに株式会社日本テレタイプ・テレツクス専門学院を設立してこれに承継させることとしたものであつて、その間、右各会社及び学院は、波多野社長によつてワンマン経営されてきたものである。

(2) 日本システム・オペレーシヨン株式会社の本店事務所はかねてより大阪市福島区海老江中一丁目一一五番地の新野田ビル内にあり、日本テレタイプ・テレツクス専門学院も同ビル内にあつたところ、NDBもまた、その設立当初から事実上(登記簿上は東京都内)同所に本店事務所を置き、波多野社長と庶務及び経理担当の女子事務員一名とが業務に携つていたが、営業規模の拡大に伴い、前記高橋ビルの一室(約二〇坪)を借り受けて同所に事務所を移転し、本社勤務の従業員も男子二名(総務課長及び業務係長)と女子二名(庶務関係担当者及び給与計算・社会保険事務等担当者)の計四名に増加するにいたつた。

(3) NDBの主たる業務の内容は、通信機器であるテレタイプ・テレツクスや電子計算機の端末装置の操作による各種データの処理業務の受託、右機器の操作にあたるキーパンチヤー及びテレツクス・テレタイプオペレーターの派遣等であるが、NDBでは、自社本社事務所内に端末機器を設置し、これを操作して委託先からの伝票等のデータ処理業務を行なつたこともあつたものの、その業務の性質上、処理すべき情報の発生場所である各委託先へNDBのキーパンチヤーらを派遣し、同所に設置されている端末機器等を操作してデータ処理の作業に当らせるのがほとんどであつた。

(4) しかして、昭和四九年一月現在、本社及び東京営業所関係を通じて、NDBとの間で申請人らと同様の労働契約を締結してこれに雇用されていたキーパンチヤーは一〇五名、オペレーターは四名、プログラマーは四名であつて、このほかに営業その他の業務に携わる者として一二名が雇用されており、丸紅株式会社、野村貿易株式会社、本州製紙株式会社など十数社の委託先に右キーパンチヤーらが派遣されていたが、NDBがキーパンチヤーを雇用してこれを各委託先に派遣するについては、前記日本テレタイプ・テレツクス専門学院の卒業生を自社従業員として入社させたり、新聞広告等による募集に応募してきた者を雇用し、一定期間右学院で研修を受けさせたうえ、各委託先に派遣するなどの方法をとつていた。また、各派遣先でのキーパンチヤーらの勤務の形態は、概ね、所定の出勤日に直接各派遣先に赴いてキーパンチ作業を行ない、給料も銀行振込の方法でNDBから支給されるという状況であつて、本社関係者との接触は乏しかつたが、キーパンチヤーらは特定の派遣先に固定的・専属的に派遣されているわけではなく、NDBの指示命令に従つて、特定の委託先から他の委託先に配置換えされることもしばしばあつた。

(5) NDBと同種の業務を営業内容とする企業は、東京・大阪等の大都市を中心に多数存在しているけれども、NDBを含めてこれらの企業が、職業安定法四四条の労働者供給事業の禁止規定に違反するものとして公共職業安定所の調査や改善要請を受けたり、事業停止の行政処分を受けたりしたようなことはなく、また、労働基準法六条の中間搾取の排除の規定に違反するものとして、監督機関からこれを是正すべき旨の指導勧告やその他の処分を受けたような事例もない。

(6) キーパンチヤーらの従事する端末機器の操作作業は、算盤による演算などにおけると同様に、速度と正確性とを無視するならば、誰にでも出来る単純な作業ではあるけれども、一応実際上の必要を充たすに足る程度の速度と正確性とをもつてこれを操作する技術を習得するには、少くとも三ケ月位の研修は必要であるというのが実情である。

(7) なお、全日空その他の委託先がNDBに資本参加しているとか、自社社員をNDBの役員に出向させているとかいつた関係は全く存在しない。

(二)  全日空とNBC・NDBとの契約関係

(1) 全日空が昭和四五年五月以降NBCとの間で期間を一年とする「業務請負契約」を締結し、期間の満了するごとにこれを更新してきたことは前記のとおりであるが、同四八年四月一日付で更新された右契約の内容は、およそ次のごときものであつた。

(目的)NBCは全日空の指示に基づいて、大阪国際空港において全日空がその業務のために使用するオンライン端末装置につき、〈1〉一般的オペレーシヨン、〈2〉キーイン作業、〈3〉右作業に付随して発生するパンチカードシステム業務の各業務を行なうことを請負う。

(人員及び勤務時間)右業務に従事するNBCのオペレーターの人員は平日七名、日曜・祝日五名とし、法の定める範囲内で全日空はNBCに超過勤務を指示することができる。

(作業の監督)オペレーターの労務管理はNBCが行なう。

(勤務場所)勤務場所は全日空の大阪国際空港ターミナル内大阪整備工場生産管理課、補給部大阪資材課、装備工場大阪分工場とする。

(オペレーターの承認)NBCは全日空の業務に従事するオペレーターの履歴書を事前に提出し、全日空の承認を得なければならない。この場合全日空は、必要により該オペレーターにつき面接および能力審査を行なうことができる。

(オペレーターの欠格事由)全日空がオペレーターの能力・素行等について不適当と判断したときは、NBCにその交替を求めることができる。NBCの必要からオペレーターを交替させるときは、最低一ケ月以前に全日空にその旨を通知しなければならない。

(責任)オペレーターが本契約の履行に際して故意又は過失により全日空に損害を蒙らせたときは、NBCにおいてその賠償の責に任ずる。本契約期間中オペレーターに損害が生じたときには、全日空は一切責任を負わず、NBCの責任において処理するものとする。

(オペレーターの技倆)NBCの派遣するオペレーターの技倆は中級以上(最低一年以上の経験者)で、心身ともに健康な者でなければならない。

(場所・設備等の提供)NBCが本契約を履行するのに必要な場所・設備・文具については、全日空においてこれを負担する。

(請負料金)オンライン端末機器操作業務に対し、全日空はNBCに一ケ月金一三一万円を支払う。但し、欠勤分ある場合は別に定める料金を差引くものとする。

(契約期間)昭和四八年四月一日から同四九年三月三一日までとする。

なお、右契約が必ずしも全面的にその内容どおりに履行されていたわけでないことは、後に認定するとおりである。

(2) ところで、NBCが当初より、みずから右契約を履行することなく、全日空の了解を得ないで同業者である被申請人NDBとの間で「業務請負契約」を締結し、右業務の履行を再委託していたことは前記のとおりであるが、昭和四八年四月一日付でNBCとNDBとの間で締結された右「業務請負契約」の内容は、人員の点を一一名(全日空整備株式会社に派遣するオペレーターを含むため)勤務時間を午前九時から午後五時までとし、請負代金を一ケ月一二六万五〇〇〇円としているほかは、全日空とNBCとの間の前記「業務請負契約」の内容と全く同一(ただし、全日空とある部分をNBCと読み替える)のものであつた。

(3) しかして、前認定のような事情から、結局全日空本社の決済を経て正式に契約書を作成するまでにはいたらなかつた全日空・NDB間の直接の「業務請負契約」も、請負代金の点を除いては、全日空・NBC間の前記「業務請負契約」と全く同一内容のものであり、同四九年四月一日以降は、そのような内容の契約が成立すべきことを前提として従前どおり端末機器操作の業務が継続されていたものである。

(三)  全日空での申請人らの勤務の実態

申請人らが、それぞれ昭和四八年五月ないし同四九年二月ごろから、全日空大阪整備工場生産管理課および同社補給部大阪資材課においてキーパンチヤーとして勤務し、部品伝票等に基づく情報を電算機の端末機にキーインする作業等に従事していたことは前記のとおりであるが、右勤務の実態は、大要次のごときものであつた。

(1) 右生産管理課および大阪資材課における端末装置は、かねてよりオフライン・システム(電子計算機に端末装置が直結されておらず、それぞれ単独で機能させるもの)であつたため、各課にそれぞれ一室宛独立の部屋を設けてこれを電算機室に充て、同室に端末装置を設置したうえ、NDBから派遣されてきたキーパンチヤーを同所に集めてキーパンチ作業(テープの穿孔作業)に従事させていたが、全日空側には右のごとき作業に従事する自社のキーパンチヤーが全くいなかつたため、右電算機室において作業するのはNDBから派遣されてきたキーパンチヤーのみであつた。

(2) ところがその後、昭和四八年四月から、ほぼ一ケ月間の試験期間を経て右電算機がオンライン化(羽田空港にある中央の電算機に端末装置が通信回線によつて直結しているもの)され、従来のように一旦大阪で穿孔したテープを東京へ送付して電算機に入力するという方法がとられなくなつたことから、電算機にインプツトすべき情報の発生する場所の近くに端末装置を分散して設置することが必要となり、かくて、生産管理課においては、格納庫二階の第一工務係の事務室の隅に二台、ターミナルビル・第四フインガー一階の第二工務係の事務室の隅に一台、また大阪資材課においては、格納庫一階の在庫管理係の部屋の隅に二台、同二階の外注係・装備工場大阪分工場の一室に二台、大阪総合ビル一階の検収係の事務室の隅に一台をそれぞれ分散設置し、それに応じてNDBから派遣された申請人らキーパンチヤーも、各設置場所に分散して作業に従事することとなつた。なお、キーパンチヤーらがキーイン作業に従事する右各端末装置の設置場所は、資材課外注係の場合のように独立した端末機室の形をとつているものもあるが、他は全日空の従業員の執務する事務室等の一隅であつて、衝立等によつて一応の仕切りがなされていたにすぎない。

(3) 電算機のオンライン化に伴い、端末機器の取扱方法、伝票の読取方法、入力結果の確認方法等について若干の変更が生じたことから、その際、全日空の担当者からNDBのキーパンチヤーらに対し、二、三日間右の点についての説明がなされ、また、その後も、新たにキーパンチヤーが派遣されてきたときも、右電算機のシステムについて全日空側から説明があつたが、それらの説明がなされた後の日常的な作業は、前記各課の諸係において作成された伝票類を全日空の担当係員らが取りまとめて各分担のキーパンチヤーの手許まで届け、それを受取つたキーパンチヤーがそれに記載されている必要な情報を端末機にキーインするということの繰り返しがほとんどであつて、作業内容の細部にわたつて個別的に指示がなされるようなことはなかつた。

(4) また、オンライン化されたのち、NDBから全日空に派遣されていたキーパンチヤーの人数は申請人らを含めて一〇名であり、そのうち六名が大阪資材課において、他の四名が生産管理課においてそれぞれ作業をしていたが、右一〇名のうち誰を大阪資材課もしくは生産管理課へ配属し、また、各課に設置された前記各端末装置のうちどの分にどのキーパンチヤーをつけるかについては、もつぱらNDB側でこれを決定し、全日空がその点について指示したり容かいしたりしたようなことはなかつた。

なお、右端末装置はすべて全日空所有のものであり、また、キーパンチヤーの作業に必要な文具や作業着なども、全日空側から支給・貸与されたものを使用・着用していた。

(5) キーパンチヤーが初めてNDBから全日空に派遣される際には、当該キーパンチヤーの履歴書の写を持参のうえ全日空の前記各課に赴き、同課の課長や係長らと面談して右履歴書の写を提出し、キーパンチヤーとしての経験・技倆等について若干の質問を受け、また、その面前で実地にキーイン作業をしてみせ、その技倆のテストを受けたのち勤務に就くというのが通例であつたが、全日空の側から技倆未熟等の理由で特定のキーパンチヤーの派遣を拒んだり、すでに派遣されてきているキーパンチヤーを他の者と交替させるよう求めたりしたような事例はなかつた。

(6) 申請人らキーパンチヤーの作業時間は、全日空側の勤務時間にあわせて、平日は九時から一七時まで、土曜日は九時から一六時まで、というのが原則で、日曜日及び祝日も作業することとなつており、ただ、前記「業務請負契約」により、平日は七名、日曜日・祝日は五名が作業に就くこととなつていたが、大阪資材課に配属された六名および生産管理課に配属された四名のうち、どのキーパンチヤーが各作業日に出勤して作業に就くかの点については、それぞれの課に配属されたパンチヤーのうちNDBから指名されて「チーフ」となつた者(申請人安岡光子、同山内幸代がそれに当り、月々一五〇〇円の責任者手当を支給されていた)があらかじめ他のパンチヤーの希望や都合を聞いたうえ、前月の下旬ごろまでに翌月分の「勤務表」を作成して週平均の労働時間が三八時間となるよう勤務日を割り振り(チーフ自身の分もその中に含まれている)、これに全日空側の担当課長もしくは係長の検印を押捺してもらうこととしていた。

なお、NDBの就業規則では、就業時間は始業午前九時、終業午後五時とする、但し、業務上の都合により必要ある場合は四週間を平均して一週の実働就業時間が四八時間を超えない範囲内において右就業時間を変更することがある旨の定めや、休日は日曜日、国民の祝日、年始(一月一日から一月三日まで)とするが、交替制勤務等所定の休日に休めない場合には、他の日と振り替えることがある旨の定めなどがあるが、右「勤務表」はそのような就業規則の定めと矛盾しないように作成されており、また、全日空側がチーフの作成する勤務表に注文をつけたり、その内容につきいちいち指示を与えたりしたようなことはなかつた。

(7) キーパンチヤーの勤務の実績については、チーフにおいてこれを確認のうえ、各課ごとに一ケ月分をまとめて翌月早々に「実績表」を作成し、全日空側の担当課長もしくは係長の検印を得てこれをNDB本社に送付していたが、全日空の方で出勤簿やタイムコーダーなどで申請人らキーパンチヤーの出勤状況をチエツクするようなことはなかつた。また、欠勤したり遅刻したりする場合には、電話等によつてチーフもしくは同僚のキーパンチヤーにその旨連絡しておき、その後出勤した際に、NDB本社から指示されている届書を作成してチーフに渡すこととなつていたが(年次有給休暇の場合も同様)、各課ごとのチーフは、一ケ月分をまとめて翌月早々にNDB所定の「勤務報告書」を作成し、各パンチヤーの前月分の休暇・欠勤・遅参・早退等の回数を記載したうえ、右届書とともに一括して全日空の担当課長や係長の検印を得、これをNDB本社へ送付していたが、パンチヤーらの欠勤・遅参・早退等について右全日空側の担当課長や係長らがその都度これをチエツクしたり、確認したりしていたような形跡はない。

(8) 所定の作業時間を超えて残業した場合(残業は月一、二時間程度のわずかのものではあつたが)、従前は、チーフが月に一度、まとめてNDB所定の「超過勤務等命令書」に全日空の担当課長もしくは係長の検印を得たうえ、これをNDB本社に送付するような取扱いもしていたが、その後は、NDB所定の「残業報告書」及び前記「勤務報告書」を作成し、右同様の方法で全日空の担当課長もしくは係長の検印を得てこれをNDB本社へ送付するようになつた。ただ、右の残業は必ずしも、全日空側の職制等から積極的に命ぜられるわけではなく、勤務当日の仕事量いかんや機械の故障等のため、結果的に所定の作業時間を超過して作業することとなるのが通例であつた。

(9) 申請人らキーパンチヤーの作業場所である全日空大阪整備工場生産管理課及び大阪資材課へは、NDB本社から総務課長が月に一、二度巡視に来るのみで、キーパンチヤーらの日常的な作業について個別的に指示を与えるようなことはなかつたが、就業規則の改訂、各種届書の提出方法の変更等の一般的な連絡事項についてはチーフを通じて全員に徹底をはかるようにしていた。また、申請人らを被保険者とする健康保険、失業保険、労働者災害補償保険等についても、NDBが事業主としてこれに加入し、さらに、永年勤続者の表彰、定期健康診断の実施、ボーリング大会等レクリエーシヨン行事の実行、レクリエーシヨン費用の補助なども、NDBが独自にこれを行なつていた。

(10) 申請人らの賃金、賞与はすべて、NDBの給与規定に基づいてNDBがその額等を決定し、銀行振込の方法により申請人らの預金口座に入金してこれを支給していたものであつて、その点について全日空が関与するところは全くなかつた。

しかして、以上(一)ないし(三)において認定したような事実関係を前提として考えるならば、申請人らが、作業実施等の面においてある程度全日空側の指揮に服していたことは否定しえないとしても、NDBの支配関係を全く離れて、直接全日空の指揮・命令の下に拘束を受けて就労する状態にあつたもの、つまり、全日空と申請人らとの間に事実上の使用従属関係が成立するにいたつていたとまで認めることは困難であるといわざるをえない。のみならず、NDBの存在が職業安定法四四条を故意に潜脱するための偽装的なもので、全く名目的なものにすぎないとか、あるいは、NDBが独立の企業としての性格を失つて全日空の企業組織に組み入れられてしまい、実質上全日空の労務担当の職制にすぎなくなつていると認めることもできず、しかも他に、直接全日空と申請人らとの間に労働契約が黙示的に締結されたことを認むべき事情は見当らないのである。

さらに、右認定の事実関係からすれば、会社であるNDBの法人格が全く形骸にすぎず、NDBと全日空とが実質的に同一であるとか、全日空がNDBを意のままに道具として使用できる支配的地位にあり、かつ、違法不当な目的をもつて会社形態を利用しているとの点についても、これを認めることはとうていできない。

そうすると、黙示的労働契約の観点からも、また、法人格否認の法理によつても、直接全日空と申請人らとの間に全面的関係における労働契約関係の成立を認め、申請人らが全日空との間に明示的な労働契約を締結した者と法律上全く同一の従業員たるの地位を取得していたことを肯認することはできないといわざるをえないから、右のごとき労働契約関係が成立したとする申請人らの前記主張はこれを採用することができず、それを前提とする申請人らの全日空に対するその余の主張はなんら判断を要しないものというよりほかはない。

三  (申請人らとNDBとの間の労働契約の効力)

ところで申請人らは、NDBの事業が職業安定法四四条に違反する違法な労働者供給事業であると主張するとともに、NDBと申請人らとの間に締結された前記労働契約は、右の違法な事業の目的を達成するための手段として同事業と不可分の関係にあるから、公序良俗に反して無効であるとみずから主張している(右労働契約が申請人らの主張どおり無効であるならば、申請人のNDBに対する賃金仮払いの申請は、主張自体で失当ということになろう)。

しかしながら、右労働契約がNDBの事業遂行の目的から締結されたものであることは明らかであるけれども、労働契約と事業目的の遂行とは法律関係としては別個のものであつて、その間にこれを一体の法律関係とみるほどの密接不可分な関連性は認められないから、申請人らの右の主張は、動機において不法のある契約の無効をいうものとみるよりほかはない。ところで、不法な動機をもつてする契約が無効とされる場合があるのは、動機は法律行為の内容そのものではないが、不法な動機をもつてする契約の効力を否定して国家がその強制的履行に協力しないことにより、公序良俗違反の事項自体を内容とする法律行為を無効とした法の趣旨を貫徹するためにほかならないのであるから、不法な動機をもつてする契約を無効とし、各契約当事者に対しその契約から生ずべき一切の法律効果を付与しないこととするためには、動機の反公序良俗性の程度がきわめて強いとか、あるいは、その程度が比較的弱くても、表意者が動機の反公序良俗性を知りながら、なおこれに協力することを意欲して契約を締結したとかの事情の存在を必要とするといわなければならない。

そこでいま、これを本件の場合についてみるに、前項において認定した事実関係からすると、NDBの事業が職業安定法施行規則四条一項各号の要件を完全に充たすものといいうるかどうかの点について若干の疑問がなくはないけれども、職業安定法四四条の規定が、従来の労働者供給事業において封建的な身分関係にも比すべき前近代的な人的支配関係に基づいて労働者が供給使用せられ、中間搾取や強制労働の弊を伴い勝ちであつたため、これを排除することによつて右のごとき弊を除去しようとする趣旨に出たものであるところからすると、右労働契約締結の動機であるNDBの事業目的の遂行が、同契約をただちに無効ならしめるほどの強度の反公序良俗性を帯有するものとは認めがたく、また、表意者である申請人らやNDBが、その反公序良俗性を知りながらなおこれに協力することを意欲して右労働契約を締結したものであるとも認めえないことは前認定の事実関係から明らかというべきであるから、NDBと申請人らとの間の労働契約が、契約としてなんらの法律効果も生ぜず、法律上の保護も与えられない無効のものであるとはとうてい認められないといわなければならない。

四  (NDBによる本件解雇の当否)

しかして、疎明資料によれば、NDBが昭和四九年八月三〇日申請人ら(但し、申請人白石を除く。本項においては以下同様。)に対し、「止むをえない業務上の都合」を理由に、就業規則五一条によつて解雇する旨の意思表示をしたことが認められるところ、申請人らは右解雇の効力を争うので、次にこの点について検討するに、疎明資料によれば、右解雇にいたる経緯として、次のような事実を一応認めることができる。

(一)  申請人らが前認定のころからNDBに雇用され、以後引続き各派遣先においてキーパンチヤーとして勤務してきたことは前記のとおりであるところ、全日空において作業するようになつたのちである昭和四八年秋頃から、肩や腕などに凝りや痛みを覚える者が出るようになつたが、単なる疲労によるものとしてこれを放置し、NDBや全日空の担当職制らにそのことを訴えるようなこともなかつた。

(二)  ところがたまたま、昭和四九年四月二〇日ごろ、全日空労組伊丹支部において職場環境の改善要求に関連して申請人らキーパンチヤーの職場環境についても調査を行ない、申請人らと懇談して身体に異常がないかどうか等を尋ねる機会があつたことから、同労組支部の紹介により、専門医である吉田外科整形外科・吉田正弘医師の診察を受けることとなつたが、その結果、同年五月二〇日ごろに、申請人白石については慢性化した「頸肩腕障害、両上肢神経炎」のため差当り三週間の休業加療を要する旨の、申請人宮城ひろ子については頸肩腕障害に進展する虞れのある「肩凝り症」のため二回程度の通院加療を要する旨の、申請人山内については「頸肩腕障害」のため約二ケ月間週三回の通院加療を要する旨の診断がなされ、さらに、同月二七日に申請人安岡について、「頸肩腕障害」のため約二ケ月間週二回程度の通院加療を要する旨の、同六月五日に申請人西本について、「頸肩腕障害」のため約一ケ月間週二回程度の通院加療を要する旨の診断が下されるにいたつた。

(三)  そこで、その旨の知らせを受けたNDB本社では、早速同月二三日山川総務課長らを全日空に赴かせて申請人らから事情を尋ねさせたり、特殊健康診断を受けるよう指示させたりしたうえ、さらに、同月二五日には波多野社長以下本社勤務の五名が揃つて全日空へ行き、全日空側担当者と善後策を協議したり、申請人らから前後の事情を聴取して勤務時間中の通院加療を諒承したりしたが、その後さらに申請人安岡及び申請人西本について前記のように「頸肩腕障害」の診断が出たため、波多野社長においては、一〇名の派遣パンチヤーのうち一度に五名もの者が「頸肩腕障害」の診断を受けたことに強い疑念を懐きつつ、全日空との間の請負代金額の交渉も事実上妥結して正式の契約締結を目前に控えていたにもかかわらず、同年六月四日にいたつて全日空との間の契約締結の断念とキーパンチヤーの総引揚を決意し、全日空側からの作業継続の懇請も聴き容れずに、前記認定のとおり同六月三〇日付をもつて作業を打ち切り、申請人らキーパンチヤー一〇名を全日空から引揚げてしまつた。

(四)  その後NDBでは、申請人らに通院加療をさせながら、本社の近くで借り受けていた大興ビルの一室において、電話帳からの抜き書きによつてダイレクトメール用の住所録を作成する作業などに就かせ、やがては、同所で準備中のパンチセンター(電算機を設置して他からの委託によつて伝票類その他の情報処理を行なう施設)において、全日空から引揚げてきたキーパンチヤーのうち健康体の五名のうち四名(一名は結婚退職が決つていた)にキーパンチ作業をさせ、申請人らにはカード・原簿の整理等補助的な仕事をさせる予定でいたところ、右四名のうち三名までが七月上旬のうちに相継いで退職していつたため、右パンチセンター設置の計画はご破算となり、申請人らにさせる仕事もないまま、七月一六日以降申請人らに対し就業規則に基づいて待命を命じ、平均賃金の六〇パーセントの休業手当を支給することとなつた。

(五)  しかるにその後も、折柄の不況も手伝つてNDBの受託業務は減少の傾向を示し、しかも申請人らはいずれも前記障害のためただちにキーパンチ作業に就けない状況にあつたため、申請人らに出社させて適当な仕事を与えることができない状態が続く結果となつたが、その間、NDB側では、実家を離れてアパート住まいをしている申請人山内と同宮城に対し、東京都内にある波多野社長個人の経営する学校での事務の仕事に就くよう勧告したことがあるだけで、他に特段の措置を講ずることもなく、待命後一月半を経た同年八月三〇日前記のごとく申請人らを解雇するにいたつた。

(六)  NDBの就業規則五一条の規定は、「止むを得ない事業上の都合により従業員を解雇することがある」というものである。

(七)  なお、申請人らの前記障害については、同四九年五月末の結核予防会大阪府支部相談診療所における検診の総合判定では、申請人山内、同西本につき「異常なし」、同白石につき「判定留保」、同宮城につき「眼精疲労の治療をして経過を追う必要あり」、同安岡につき「眼精疲労の治療が望ましい。(オーバーワークか)」とされたが、同年七月一〇日の住友病院の診断ではいずれも「頸肩腕障害」で一ケ月の通院加療を要するものとされ、さらに、同年一一月一二日の前記吉田正和医師の診断でも同様であつて、なお治癒するにはいたらず、通院加療中であるとされている。また、申請人らの右「頸肩腕障害」については、同四九年一一月二九日天満労働基準監督署において業務上の疾病である旨の認定がなされた。

しかして、以上認定のような事実関係から本件解雇の効力について考えてみるに、NDBの就業規則五一条にいわゆる「やむをえない事業上の都合」とは要するに、従業員を解雇するもやむなしと客観的に認められるような相当な事業上の事由を指すものと解すべきところ、右解雇当時、折柄の不況も手伝つてNDBの受託業務が減少の傾向を示していたことは右にみたとおりであるけれども、前認定のごときNDBの事業の形態からすれば、取引先の数や受託業務の量の増減することや、それに伴つて一定期間、自社の従業員たるキーパンチヤーの仕事がなくなるような事態が起こりうることは容易に予測されるところであり、また、職業安定法四四条を故意に潜脱するための偽装的な事業体でない以上、そのような事態のありうることを前提として運営さるべきは当然であるから、単に受託業務が減少の傾向を示し、差し当つて申請人らキーパンチヤーにさせる仕事がないというだけのことで、特段の措置も講じないまま、仕事のなくなつた従業員をわずか二ケ月で解雇するがごときは、解雇するもやむなしと客観的に認められるような相当な事業上の事由による解雇として許容されうるものとはとうてい認めることができないのである。

のみならず、申請人らが当時業務上の疾病に罹患して加療中であつたことは、右の事実関係からこれを推認するに難くないところである。もつとも、申請人らは当時、右業務上の疾病の療養のために休養していたわけではないから、右の解雇が直接労基法一九条に違反するものということはできないけれども、右労基法の規定は、使用者に労働者の生命・健康に対する配慮義務があり、負傷・疾病に基づく労働不能を理由とする解雇もその点から制限されることがありうることを当然の前提とするものであるから、たとえ右規定に直接に違反する解雇でなくとも、適当な経営上の措置や臨時労働力の雇用などの手当てを施すこともしないで、業務上の疾病治療中の労働者を極めて短期間のうちに解雇するようなことは、使用者の右配慮義務に違背するものとして、少くとも前記就業規則五一条にいわゆる「止むを得ない」の要件を充たさないものといわなければならない。

そうだとすると、申請人らに対する前記解雇の意思表示は、同規則五一条所定の「止むを得ない事業上の都合」によるものでないのに、それによるものとしてなされたものであつて、その効力を生ずるに由ないものといわざるをえない。

五  (申請人白石の任意退職の成否)

さらに、疎明資料によれば、申請人白石において同四九年八月七日NDBに対し「退職願」を提出して退職の意思表示をしたことが認められるところ、同申請人は、右退職の意思表示は信義則に反して当初より無効であるか、または、取消により遡つて無効となつたものであると主張するので、以下その点について考えるに、疎明資料によれば、右退職の意思表示がなされた前後の事情として、次のような事実を一応認めることができる。

(一)  申請人白石は前記認定のとおり、昭和四九年五月二〇日吉田外科整形外科において「頸肩腕障害、両上肢神経炎」のため差し当り三週間の休業加療を要する旨の診断を受け、同年六月一〇日から休業に入つたものであるが(他の申請人らは通院加療のみ)、その後も、同年六月二七日西宮市内の有馬整形外科において「頸肩腕症候群、両肩関節周囲炎」のため六月一二日より向う一ケ月間加療のため休業を必要とする旨の診断を、また、同年七月一〇日には住友病院において「頸肩腕障害」のため向後一ケ月間の通院加療を要する旨の診断をそれぞれ受け、休業後は主として、自宅から最も近い右有馬整形外科に通院して治療を受けていた。

(二)  ところで、右通院のための交通費はNDB負担とされていたため、NDBより申請人白石に対したびたび、右通院交通費の内訳を明らかにしてこれを請求するよう促していたところ、同年八月二日ごろになつてようやく、右通院交通費の内訳明細を記載した書面が申請人白石から提出されたが、右書面には、六月一一日以降日曜休日等を除いてほぼ連日有馬整形外科等へ通院(往復で二〇〇円)しているような記載がなされていた。

(三)  そこで、これをみた波多野社長は、早速森業務係長に対し、有馬整形外科に赴いて実情を調べてくるよう指示したので、同係長において同月五日有馬整形外科まで出向いて申請人白石の通院加療の実情を尋ねたところ、前記書面上有馬整形外科に通院したものと記載されている二四日のうち一〇日分については、実際には通院していないことが判明した(申請人白石がどのような理由から、実際には通院していない一〇日分についても通院しているものとしてその交通費を請求したのか、必ずしも明らかでない。その点に関して申請人白石の述べるところは、いずれも首肯するに足るものとはいいがたい。)。

(四)  ところが翌八月六日、申請人山内、同宮城が他の用件でNDB本社に呼び出されたことから、申請人白石においても他の申請人らと連絡をとり、右申請人らに同道して同本社に赴いたところ、その際、NDBの山川総務課長の指示により同社総務課員の岡本幾子から申請人白石に対し、前記明細書記載の通院交通費のうち、七月一五日までの分から針鍼医と眼科医に通院した三日分のみを控除した七三四〇円(この中には、実際には通院していない前記一〇日分二〇〇〇円が含まれている)を受取るよう告げたので、申請人白石もこれをそのまま受領してしまつたが、その時点において右山川課長もしくは波多野社長が、森係長からの報告を受けて前記一〇日分の通院交通費が余分に請求されている事実を知つていながら、ことさらにそれを匿して申請人白石にこれを受領せしめたものかどうかの点については、若干の疑念を残しつつも、結局、証拠上これを明らかにすることができないというよりほかはない。

(五)  しかして、申請人白石が実際には通院していない一〇日分についてまで交通費を請求し、黙つてこれを受領した事実を知つた波多野社長は(同社長がどの時点でこれを知つたのか証拠上これを明らかにすることができないことは右のとおりである)、同申請人に対し厳重に注意するよう山川課長に指示したので、翌八月七日同課長の指示を受けた前記岡本幾子から電話で申請人白石にNDB本社まで出向いてくるよう連絡し、同日午後、同本社において山川課長から(波多野社長は不在)同申請人に対し、前記通院交通費の明細書を示しながら、どのような理由で実際に通院していない一〇日分についてまで交通費を請求して受領したのかを詰問するとともに、そのような行為は横領であつて、就業規則上懲戒解雇事由に該当する行為であり、また、そのようなことで懲戒解雇されたりすれば、世間体もよくないし、将来の結婚にも差支えるのではないか等の趣旨のことを申し向けて厳しく注意したうえ、始末書の提出を求め、たまたまその場に来あわせていたNDBの監査役赤松敬二郎もこれに同調して同趣旨の発言した。

(六)  これに対し申請人白石は、素直に事実を認めてその場で二〇〇〇円を返還したうえ、始末書を書こうとしたが、その書き方が分らなかつたため、山川課長に教えてもらつて「吉田整形外科、有馬整形外科、住友病院に通院した交通費(五月一五日―七月一五日)計七三四〇円を八月六日請求受料(原文のまま)しましたが、そのうちの一〇日間不正の請求を行ないました。(一〇日間通院せず)」なる本文で波多野社長宛の始末書を書き、さらに、卒直な気持を書くよう促されて右の本文に引き続き「なんら私のいい分もいいわけもありません、会社にごめいわくをおかけした事は、深くおわび申し上げます、今後の私の身は、私自身の不征(原文のまま)な行動から起きたことです、私から今社長にお願いすることは、ただ一つ、かつてないい分になるかも知れませんが、なにとぞ、おんびんにお願いいたします」と書き加え、記名捺印のうえこれを山川課長に提出した。

(七)  申請人白石の退職願(NDBの退職願用紙に書かれたもの)が同申請人から山川課長に手渡されたのは、右始末書が書かれた直後(数分後)のことであるが、申請人白石による右退職願の提出が、はたして同申請人のいうように、山川課長らから、退職願を書いておけば社長も考え直して引き続き会社で働かせてくれるであろうから、形だけでも退職願を出しておく方がよいといわれ、それを信じてしたものであるのか、それとも山川課長のいうように、申請人の方から進んで任意退職の申出をしたので、その申出どおりに用紙を与えて退職願を書かせたことによるものであるのかについては、いわば水掛論の形となつているためいずれとも速断しがたい面のあることは否定しえないところである。ただ、申請人白石のいう所は、それ自体において不自然なところがあるばかりでなく、翌八月八日に同申請人が波多野社長から同日付で退職を承認する旨を告げられた際にも、事の意外の成り行きに驚いて同社長や山川課長にそのことを訴えるようなことはしないで、失業保険金の受給手続のために離職票の発給を求めたり、退職金や同日までの給料を異議なく受領したりしているところからすれば、むしろ、懲戒解雇よりは穏便な途である任意退職の方を、申請人白石の方から進んで申し出たものとみるのがより自然であるというべきであろう。

(八)  その後、申請人白石からNDBに対し、右退職の意思表示が詐欺または強迫によるものである旨の抗議がなされたようなことはなく(当時同申請人はすでに、他の申請人らとともに全日本商業労働組合に加盟し、NDB分会を結成していたものであつて、孤立無援の状態にあつたわけではない)、同八月末ごろにも引き続き離職票を請求したりしており、また、その他の申請人らが解雇された直後である同年九月二日に、同組合大阪府支部執行委員長川崎常次と申請人白石との連名で波多野社長宛に出した内容証明郵便による通告書にも、同申請人が八月七日にNDBを自己退職したことについては、「全く同意しがたいものでありますので」全面的にこれを撤回する旨の記載があるだけで、右自己退職がNDB側の詐欺もしくは強迫によるものである旨の記載はない。

しかして、以上認定のような事実関係からすれば、申請人白石の本件退職の意思表示が詐欺によるものとはいえず、また、山川課長らの前記の程度の言動が違法な害悪の告知としての強迫に当るものとみることも困難であるから、右意思表示が取消により遡つて効力を失つたとする同申請人の主張は理由がないというべきである。さらに、右退職の意思表示にいたる一連の経過がNDB側によつて仕掛けられたわなである旨の主張を肯認することが証拠上困難であることも前記(四)のとおりであるから、右退職の意思表示およびこれを承認する旨のNDBの意思表示が全体として信義則に反して無効であるとする申請人白石の主張もまた、これを採用することができないといわざるをえない。

六  (結論)

以上の次第であつて、申請人らと全日空との間の労働契約関係が存在するものとは認められないから、それが存在することを前提とする申請人らの全日空に対する本件仮処分申請は理由がなく、申請人白石とNDBとの間の労働契約関係も同申請人の任意退職によつて消滅するにいたつたもので、同申請人のNDBに対する申請も理由がないというべきであるが、その余の申請人ら四名に対するNDBの本件解雇の意思表示は無効であつて、同申請人らは現になおNDBの従業員たるの地位を有し、同社に対し賃金請求権を有するものといわなければならない。しかるところ、右申請人ら四名がいずれも独身の女性であつて、賃金のみによつて生計を維持している労働者であり、本件解雇後は、親族・友人等からの援助・借金等で生活していることは疎明資料によつてこれを窺うに難くないところであるから、前記認定の諸般の事情を考慮して、主文掲記の限度において保全の必要性を認めるのが相当である。

よつて、申請人白石を除くその余の申請人らのNDBに対する申請を右の限度で相当として認容することとし、その余の申請を却下し、申請人ら五名の全日空に対する申請及び申請人白石のNDBに対する申請をいずれも理由なきものとして却下し、申請費用の負担につき民訴法八九条、九二条但書を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 藤原弘道)

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